派遣社員の女性に多い!? “パワハラ一体型のセクハラ”の実態と対処法

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。

わが国で『セクシャルハラスメント』(以下“セクハラ”と略す)という言葉が一般的に使われるようになったのは1989年の新語・流行語大賞の新語部門でこの言葉が金賞を受賞したころからだったかと記憶しています。

そのころと比べればずいぶんと世間のセクハラに対する目は厳しくなり、女性が理不尽な不快感に苦しむことの少ない社会にはなったように思います。

しかし、筆者が最近気になっているのは“限りなくパワハラと一体化したセクハラ ”で、絶対的に優位な立場を利用して卑劣な行為を行う人を見ていると同じ男性としてとても情けない気持ちになってしまいます。

都内でメンタルクリニックを開院する精神科・心療内科医のT先生は、『パワハラ一体型のセクハラが原因で適応障害などの大事(おおごと)に至ってしまう前に一度、心療内科の医師のところへ相談にきてほしい』と言います。

子育ても一段落してパートやアルバイト、派遣といった形でまた働いてみようと考えておられる女性のみなさんにも参考にしていただければ幸いです。

●セクハラ被害の相談件数は、派遣労働者のほうが正社員の3倍以上も多い

T先生が言う“パワハラ一体型のセクハラ”とは、これまでも「対価型セクハラ」などと呼ばれてきた“職場における階級の優位性を利用して下位にある者に対して行う性的なハラスメント行為 ”に近い概念です。

製造業などの作業現場で監督・指導をする立場にある上司が、作業スペースの狭さを利用して作業員の女性に体を密着させてきたりすることもこれに当たるでしょう。

セクハラ自体が本来パワハラの一種であるとする考え方もありますが、筆者が近年この“限りなくパワハラに近いセクハラ行為”が目立つのではないかと感じていることには統計的な裏づけもあります。

厚生労働省が公表している『個別労働紛争の相談状況』や『派遣労働者実態調査』の直近の数字と、総務省が実施している『労働力調査』の雇用形態別雇用者数の数字などから算出すると、2014年以降のセクハラ被害の相談件数は派遣労働者で正社員の実に3倍以上も多い ことがわかっています。

そのため、近年のセクハラは“単に性衝動に基づいたもの”と考えるより、“パワハラと一体化したもの”の方が多いと考えた方が自然だからです。

よほどのことがない限り無期限の雇用を保障されている恵まれた人たちによって、景況や業績といった理由で企業側の都合でいつ雇用契約を打ち切られてもおかしくない非正規雇用という弱い立場で働いている人たちが、理不尽で不快なセクハラ行為の被害に遭っている。

そうだとすれば、これは看過できないことなのではないでしょうか。

●左手薬指のダミー指輪の効果も今は昔、既婚女性こそセクハラ被害に遭いやすい傾向が

しかもこうした“パワハラ一体型セクハラ”の加害者となっているような相対的に上位の職責にある人たちが、ここ数年来の傾向としてセクハラ行為の対象を“未婚女性”から“既婚の女性”へも広げてきている ことが、このタイプのセクハラ問題をより深刻化させていると、前出のT先生は指摘しています。

『たとえば以前であればセクハラ行為の主たる被害者であった未婚の女性が、わざとダミーの指輪を左手の薬指にすることでセクハラ被害に遭う危険性を減らすことに効果がありました。「既婚者の女性と、面倒なことにはなりたくない」といった思いが加害者側にあったからです。

ところが最近は、「既婚の女性の方がセクハラ行為に対して我慢強い 」みたいに相当身勝手な思い込みを抱いているセクハラ加害者が増え、ダミーの指輪のようなセクハラ撃退法が功を奏さなくなりつつあります』

このようなお話を日頃からセクハラ被害の相談に携わっている医師の口から聞くと、パワハラと一体化したセクハラというものは被害者の“生活”という人の暮らしの根源的な部分の弱みに乗じているため、かなり質(たち)の悪い ものであるような気がしてきます。しかしそれでも、『対処法はある』と、T先生は言います。

●パワハラ一体型セクハラの加害者は自分の立場が揺らぐことが何よりもこわい

『パワハラと一体化したセクハラ行為をする人は、被害者である非正社員の女性が抗議をすることはあっても“雇い止め”につながりかねない法的な手段にまで出ることはまずないだろう と高をくくっています。

非正規雇用の人にとっては数か月とか半年の単位でやってくる雇用契約の期限のときに会社側が「この人は面倒だ」と感じるような状態にあれば、雇用契約を打ち切ることに会社側には現行法上何の非もないため、適当な理由でもって雇い止めにしてくれるだろうと思っているからです。

したがって法的に闘う場合にはセクハラ上司が明らかに法に触れる行為をしているという証拠の収集 が必要で、これは次の職場を探しておく必要がある非正社員のセクハラ被害者にとってはかなりの負担になります。

一方、パワハラ一体型セクハラへの対処法として、法的な手段ではなくわれわれ医師に相談していただくという方法が存在します。この場合法的に“闘う”のとはちょっと違って、被害者の心身の健康を“守る” という感じの対処の仕方になります。

パワハラ一体型セクハラの被害者にはストレスからくる集中力の低下、不安感、恐怖感、抑うつ感、イライラ感、わけもなく涙が出る、喉の異物感、頭痛、胃痛などの心療内科的な症状が伴うため、医師の立場で患者を守るというスタンスの対処法です』(50代女性/前出・心療内科医師)

T先生はこう言い、具体的には次のような段取りの対処法をおしえてくださいました。

パワハラ一体型セクハラの被害に遭ってしまったときには、

(1)事態をできるだけ落ち着いて省み、自分には非はなく悪いのはセクハラをする上司の方である ことをまず自覚する

(2)その上で、セクハラ上司の上司にあたる立場の人の中で、できるだけ信頼がおけ自分の話をきちんと聴いてくれそうな人は誰かを選定する

(3)(2)ができたらわれわれ医師の方で事態の改善に有効と考えられる診断書を書きますので、(2)で選定した“セクハラ上司の上司”に診断書を携えて 相談してください

パワハラ一体型のセクハラをする加害者は自分の立場が揺らぐことが何よりもこわいため、このような対処法が有効であるというのがT先生の見解です。

その点が“単に性衝動に基づいたセクハラ”と質的に区別されるということでした。

なお先生によれば心療内科や精神科のほか、レディースクリニックやウイメンズクリニックのような看板を掲げている医療機関であればほとんどのところでセクハラの相談にのってくれるとのこと。

法務関連の専門機関と連携しているクリニックもある とのことです。

自分の立場の優位性や自分が手にしている権力をいいことにパワハラ一体型のセクハラをしてくるような上司に、泣き寝入りをつづけることはありません。

「いいね!」の連発”はハラスメント? 

嫌いな上司からSNSで友達申請、あなたならどうする?

■“「いいね!」の連発”はハラスメント?

 前回は、休日や勤務時間外に仕事上のやり取りをしないで済む「つながらない権利」について取り上げた。特にスマートフォンが普及してからは、オフィス外でのメールの送受信が気軽になったため、公私の境目がつかなくなってしまうケースが多く報告されるようになった。

 前回は電話やメールでの連絡に絞って話をしたが、「つながらない権利」を考えるうえで忘れてはならないのが、ソーシャルメディアの存在である。最近では、TwitterやFacebookなどのSNSで職場や取引先の人とつながるか否かが、多くのビジネスパーソンにとって悩みの種になっている。フォローや友達申請を求められることが不快に思う人も一定数いて、「ソーシャルネットワーク・ハラスメント」(ソーハラ)という言葉まで登場している。

 愛知工業大学が作成した冊子「教職員向けガイドブック-STOP!ハラスメント-」によると、“「いいね!」の連発”もソーハラの一種になるらしい。あるユーザーのツイートやニュース記事でこのことが話題になると、ネット上で議論が巻き起こった。「考えすぎ」と思う人がいるかもしれないが、常に同じ人から「いいね!」を押されると、日常生活を監視されている気持ちになる場合もある。それが上司や取引先の人だったらなおさらだ。「いいね!」を押している本人は良かれと思ってやっていたとしても、やられた当人からするとストレスやプレッシャーになっているという構図は、多くのハラスメントに共通するものである。

実際に部署に新人が入ってきたら、まずはSNSのアカウントを探してみるなんて話はよく聞くし、投稿やコメントを巡って職場や取引先の人とトラブルになったという事例もたくさんある。プライベートの投稿を見られることを防ぐため、複数のアカウントを使いこなしている人も珍しくない。今回は、SNS上の「つながらない権利」について考えてみる。

■コメント強要、画像保存、グループ外し……

 オウチーノ総研が2016年5月に発表した「SNSと職場コミュニケーション」実態調査によると、職場の人とつながっているソーシャルメディアで一番多いのは、LINEで61.3%。次いでFacebookが37.6%、Twitterが20.5%、Instagramが17.7%の順となっている。

パワハラの6つの定義をきちんと知って、トラブルから身を守る方法

パワハラという言葉が社会的に認知されるにつれて、被害の報告も多くなっています。厚生労働省のパワハラ対策総合サイト「あかるい職場の応援団」が調査した過去3年間のパワハラに関する経験の有無(平成24年実施)では、パワハラを受けた経験があると回答した人は、25.3%と報告されており、約4人に1人が被害者となっている実情が明らかになりました。

パワハラは、行っている本人は自覚しづらいからこそ注意しなければいけない事柄です。そこで、和田金法律事務所の渡邊寛弁護士に、パワハラの定義とブラック企業問題について伺いました。

■パワハラの定義とは?

まず、パワハラの定義とは何かを再度確認しておきましょう。

「パワーハラスメントについては、平成24年に厚生労働省のワーキンググループが報告、提言を取りまとめています。ここでパワハラは、“同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為”と定義づけられています。

また、“職場内の優位性”が上司と部下という関係に限らず、人間関係や専門知識などの優位性まで含むことが明らかにされています。」(渡邊弁護士)

■典型的なパワハラの種類は6つ

業務でミスをした部下を叱りたいのだけど、どこまでが業務上の教育で、どこからがパワハラになるのかわからないといったことも多いと思います。

何が業務上適正な注意や指導を超えたパワハラであるかは、業務上の必要性、動機・目的、労働者の受ける不利益などからケースバイケースで判断することになります。下記の「典型的なパワハラ6類型」が、前述の提言で挙げられており、ここからある程度具体的なイメージができるかと思います。

①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

「パワハラの加害者は、被害者の損害を賠償すべき不法行為責任を負いますが、会社も加害者の使用者として不法行為責任を負います。また、雇用契約上、会社(使用者)は従業員に対して安全配慮義務を負いますから、パワハラを防止したり止めさせる対策を取らなかったりした場合には、安全配慮義務違反として契約上の責任も負います。」(渡邊弁護士)

■「中小企業はどこも同じことをやっているから大丈夫」という考えは通用しない

経営の苦しい零細企業の経営者が、人材不足や資金不足を理由にブラック企業まがいのパワハラを強いるといった事例も数多く報告されていますが、こうしたケースでは「どこも同じことをやっているのだから大丈夫」という意識が根底に垣間見れます。本当に大丈夫なのでしょうか。

「労働者から裁判を起こされたときは、法律によって判断されます。ですから、“ほかも同じ”“法律どおりでは経営が立ちいかない”“俺の若いときは”という言い分は通用しません。労働関係の訴訟は増えていますし、ずさんな労務管理、ブラック体質が結果として大きな損失に膨らむケースも多いです。売上だけでなく、労務管理も経営能力の重要な要素と考えることが必要です。」(渡邊弁護士)

自分の勤める会社がブラック企業ではないのか、といったことで誰も悩みたくはないと思います。しかし、組織で働いていれば、その場の雰囲気に飲まれて人間関係のトラブルに巻き込まれることも想定しておかなければいけません。自分自身がパワハラの被害に合わないようにすることはもちろん、自分が上司になった時に、パワハラにならない部下の叱り方、仲間との接し方を知っておくことも大切なのです。

*取材協力弁護士: 渡邊寛(和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)
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