「乳がんがふえている原因とは?」がん・乳がんの予防に取り組む南雲先生が教えます

ここ30年で乳がんが3倍にも増加しているって知っていましたか? なぜ、こんなにもふえ続けているのかを、乳腺専門医でがん・乳がんの予防に力を注ぐナグモクリニック総院長・南雲吉則先生にうかがいました。

がんは早期発見・治療だけでは克服できません

◎ふえているがん、減っているがん

日本人の2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなる時代になりました。脳卒中は確実に減っているのに、がんはふえる一方です。私は乳腺外科の医師ですから、乳がんの検診をして手術をします。乳房を切りとり、放射線を当て、抗がん剤を投与します。副作用も後遺症もないとはいえません。にもかかわらず、そうした治療を推し進めてきたのには「早期発見と最新治療が命を救う」と信じてきたからです。しかし現実は、乳がんになる人、そして乳がんで亡くなる人の数は減るどころかふえつづけています。

とはいえ、すべてのがんがふえているわけではありません。現在男性の死亡率が最も高いのは肺がんですが、1995年を境に減少傾向にあります。禁煙の効果が出始めてきたと考えていいでしょう。死亡率がふえているのは、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、子宮体がんです。これらは食生活の変化による肥満が原因です。肥満になると血中のコレステロールがふえますが、コレステロールは性ホルモンの材料になるので、男性ホルモンや女性ホルモンの影響を受けやすい臓器、つまり乳房や前立腺、女性器のがんがふえるのです。

大腸がんや膵臓がんや胆管がんの死亡率がふえているのも食生活が原因です。野菜をあまりとらなくなって、肉、とくに加工肉ばかりとるようになると、腸内に悪玉菌が増殖して、胆汁酸を「二次胆汁酸」という発がん物質に変えます。このことによって大腸がんや胆管がんが増加しました。アルコールのとりすぎによる慢性膵炎も脾臓がんの原因です。

◎乳がんがふえているのはなぜ?

「私はタバコを吸わないし、不摂生もしていないのに、がんになった」というかたもいらっしゃるでしょう。それでは日本女性に最も多い乳がんを例にとって、そのほかの原因についてお話ししましょう。乳房は女性ホルモンで成長しますから、乳がんも女性ホルモンで成長します。昔の日本女性は早婚で多産でした。妊娠中や授乳中は月経がありませんから、女性ホルモンの分泌もありません。また栄養状態が悪かったので、初潮が遅く閉経が早かったため、月経のある期間が短かったのです。そのため、乳がんになる人が少なかったのです。

ところが、現代女性は未婚、晩婚、少子化のため、妊娠・授乳によって月経が止まっている期間が短くなりました。また栄養状態がよくなったので初潮年齢も早まり閉経も遅くなりました。そのため分泌される女性ホルモンの量が多くなって乳がんが急激にふえました。乳がんは女性ホルモンで成長しますから、閉経すれば乳がんになりにくくなるはずです。実際に日本では40代から50代が最も多いのです。

ところが欧米では、閉経後の乳がん患者数が日本の5倍に上ります。人種の違いでしょうか。いえ、白人でも黒人でも黄色人種でも、欧米在住であれば乳がんにかかる率が高くなります。つまり人種の違いではなく、生活習慣が原因だということがわかります。閉経後、卵巣からの女性ホルモンが分泌されなくなると、そのかわりに副腎(腎臓の上の小さな臓器)から男性ホルモンである「アンドロゲン」が分泌されます。女性の乳房や脂肪にはアンドロゲンを女性ホルモンに変える「転換酵素」があります。

欧米人は日本人にくらべて肥満が多く、血中のコレステロール値も高くなります。コレステロールは性ホルモンの材料ですので、副腎のアンドロゲンがふえます。アンドロゲンが転換酵素によって女性ホルモンに変わるため、肥満の多い欧米では閉経後の乳がん患者が5倍多いのです。同様に、性ホルモンで成長する前立腺がんも5倍になっています。かたよった食事をとっていると、日本でも今後、閉経後の乳がんがふえると思われます。

撮影/佐山裕子(主婦の友社写真課)

監修
南雲吉則(なぐもよしのり)先生
ナグモクリニック総院長。医学博士。乳腺専門医。1955年生まれ。ナグモクリニック総院長として、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5つの院でがん手術、乳房手術を行う。近年は「命の食事プロジェクト」と銘打ち、がんから命を救う食事と生活の指導・講演にも力を注ぐ。

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