ぎっくり腰の痛みが注射1本で消える――痛み専門「ペインクリニック」とは何か

腰痛、肩こり、関節痛、頭痛、神経痛など、しつこい痛みに悩まされている人には、痛みの緩和を専門とする「ペインクリニック」という選択肢もある。リハビリ室や手術室、入院施設なども備え、大学病院に匹敵する専門治療ができる仙台ペインクリニックの伊達医師が、専門医ならではの治療を解説する。

■ぎっくり腰になっても次の日から仕事ができる

「ペインクリニック」という言葉はまだ馴染みがうすいと思います。

 いろんな医療機関を回ったのに痛みから解放されず、苦しんでいる人に対して、神経ブロック注射や薬物療法、心理療法など様々な治療法を駆使して、痛みを和らげるのが私たちの役割です。

 当院を受診される人で多いのは腰痛の患者さんで、全体の約4割を占めます。肩こり、肩やひざなど関節の痛み、手足のしびれなどの患者さんもよく来られます。また、このような整形外科的な疾患以外で多いのが、頭痛や顔面(三叉)神経痛、帯状疱疹後神経痛などです。他に、ケガや病気がきっかけで強い痛みが続く「複合性局所疼痛症候群(CRPS)」や、全身に痛みが出る「線維筋痛症」など、様々な痛みに苦しむ患者さんが来られます。

 これらの痛みは原因不明のことも多く、治療しても中々よくならないので、診てもらえる医療機関があまりありません。ペインクリニックでは、そのような患者さんでも粘り強く治療します。

 ペインクリニックの専門医はもともと麻酔科出身が多く、神経に直接的に麻酔薬を注射する神経ブロック注射が得意です。あまり知られていませんが、この注射で劇的な効果を得られる疾患の1つが急性腰痛、いわゆる「ぎっくり腰」です。

 整形外科で飲み薬をもらったのに痛みがあまり取れず、数日間動けなくて困ったという経験のある人もいるのではないでしょうか。ですが、ぎっくり腰は炎症を起こしている腰骨の関節(椎間関節)に直接注射すれば、ほとんどの人はすぐに痛みが和らぎ、次の日から仕事ができるようになります。椎間関節に注射を打つのは難しいのですが、ペインクリニックの専門医なら打ってくれるはずです。

 神経ブロック注射は慢性腰痛にも効果的です。慢性腰痛の85%は、原因のわからない「非特異的腰痛」と診断されています。しかし、神経ブロック注射を打って、効けばそこが痛みの発生源だとわかりますし、効かなければそこではないとわかります。痛みの出方や治療効果、画像などを詳しく調べることで、原因が特定できることも多いのです。

 この神経ブロック注射は、帯状疱疹後の神経痛にも効果的です。子どもの頃に感染して、神経節の中に潜伏していた水ぼうそうのウイルスが、体力低下や加齢を引き金に動き出し、皮膚に帯状の発疹をつくるのが帯状疱疹です。通常、抗ウイルス薬や抗炎症鎮痛薬を投与しますが、このときにしっかり痛みを取らないと、痛みが慢性化してしまう場合があります。炎症によって血流が途絶え、神経が変性し、痛みに過敏になってしまうのです。これが帯状疱疹後神経痛です。

 こうなる前に神経ブロック注射をすれば、強制的に血の流れをよくして、神経の変性や痛みの慢性化を阻止することができます。ですから、帯状疱疹で薬を飲んでいるのに、発症後2週間経っても痛みが取れない場合は、ぜひペインクリニックを受診してみてください。

■神経ブロック注射は「痛みの悪循環」を断ち切る

 麻酔薬というと、歯の治療時のように一時的に効いて、数時間で効果が切れると思うかもしれません。しかし、神経ブロック注射の効果は多くの場合、1~2週間続きます。その理由は、「痛みの悪循環」を断ち切ることができるからです。

 ケガや病気で痛みを感じ、神経が興奮すると、血管の収縮や筋肉のけいれんが起こり、痛みが強くなります。すると痛み物質や炎症物質が放出され、さらに神経が興奮し、痛みが増幅されていく。これが痛みの悪循環です。この興奮や炎症を抑えることで、神経ブロックは持続的な効果を得ることができるのです。

 ただ痛みを取るだけでは、根本的な治療はできません。その間に、リハビリを行うことが重要なのです。たとえば肩こりは、パソコンを操作するデスクワークで、うつむきがちな姿勢をしている人によく起こります。そのような場合、首の後ろの筋肉が硬くなっているので、それをほぐすストレッチを行う必要があります。自分に合ったストレッチ方法を覚えれば、痛みをセルフコントロールできるようになる。このように、慢性的な痛みは自分で予防することも大切です。

■心理的な要因も侮れない

 8から9割の痛みは、こうした器質的な治療で改善させることができます。しかし、人によっては心理社会的な要因、つまり心の問題が痛みを増幅させている場合があります。実は脳の中で、痛みを感じる領域と不愉快な感情(情動)を感じる領域は重なっています。そのため強いストレスを受け続けると、不快な感情と痛みとの区別がつかなくなり、それが痛みを増幅させてしまうのです。

 こうした痛みが生じやすいのが、苦しい思いをしているのにつらいと言えない「自己主張障害」の人や、ひどいいじめや虐待に遭っているのにつらいと感じなくなってしまった「失感情症」の人たちです。その表現できない感情が身体化して、腰痛、肩こり、頭痛などの痛みに向かってしまうのです。

 心理社会的な要因が関係していると思われる人に対して、当クリニックでは臨床心理士のカウンセリングを受けてもらうようにしています。自分がつらいと言えないことや、痛みの背景にあるつらさに気づいてもらうだけで、痛みが和らぐ人が少なくありません。ペインクリニックの専門医なら痛みに心が関係していることもよく理解しているので、心理社会的な痛みにもうまく対応してくれるでしょう。

「早くペインクリニックを知っていればよかった」という患者さんが少なくありません。まだまだ数は少ないのですが、各地の大学病院や基幹病院の多くにペインクリニックの外来が設けられています。また、全国ペインクリニック開業医会に所属する医師も100人を超えました。各都道府県の専門医や施設のリストは、「日本ペインクリニック学会」のホームページに掲載されています(http://www.jspc.gr.jp)。

 治療をしたのに痛みが中々取れないという場合はぜひ、ペインクリニックも選択肢の1つに入れておいてください。

関連記事
最新記事