苗字の変更はどんな時に認められるのか

●氏(苗字)を変更できる時はどんな時?

結婚や離婚などの身分関係の変動は、氏の変更を伴います。

他方、そのような身分関係の変動もないのに、一定の要件のもとに自分の氏を変更することがあります。

戸籍法107条1項は、「やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」と定めており、ここでいう「やむを得ない事由」とは、

氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合をいうとされています。

特に、札幌高裁が昭和41年に下した決定は、「主観的事情を意味するのではなく、呼称秩序の不変性確保という国家的、社会的利益を犠牲にするに値するほどの高度の客観性を意味する」としております。

そこで、具体的どのような場合が「やむを得ない事由」に該当するのかを見ていきます。

●前科を隠したい場合はできる?

犯罪者が社会復帰を果たし、更生して生きていくためには、前科者という烙印は障害になることが予想されますので、前科を隠すために、氏を変更することもやむを得ないのではないかという意見もあるでしょう。

しかしながら、東京家裁が昭和41年7月に下した決定は、「心機一転して更生したいという心情は分からないではないが、かかる事情が、それ自体氏の変更を認めるべき『やむことを得ない事由』に該当しないことは詳言するまでもなく、明らかであるといわなければならない。」と判断しました。

前科のある者が、再び犯罪に手を染めた場合には、そうでな者に比べると情状が悪く、量刑に影響を及ぼします。常習として窃盗を繰り返した場合には、通常の窃盗罪ではなく、常習累犯窃盗罪という重い犯罪にもなるのです。

前科を隠すために氏の変更を認めることは、却って社会的利益を損ないかねず、更生したいという心情だけでは足らないということなのでしょう。

●反社会的勢力から逃れたい場合は?

元暴力団員として氏が周知されている者から氏の変更について、平成8年8月に宮崎家裁は、客観的に現在の氏による社会生活上の現実の支障や不利益があり、氏の変更の必要があると認められ、加えて、氏を変更することが本人の更生に必要と認められる事情がある場合には、やむを得ない事由に該当するとしました。

これも、元暴力団員として氏名が周知されておらず、反社会的勢力から逃れたいという主観的事情だけだったとすると、逆に変更が認められなかったかもしれません。

●名前を理由にいじめられた場合

氏が滑稽珍奇な場合には、笑いの対象とされたり、からかわれたりすることが予想されます。そのような場合には、社会生活上の苦痛を伴いますので、氏を変更したいということも理解し得るところです。

岐阜家裁高山支部の昭和42年8月決定は「大楢」という氏について、那覇家裁の昭和50年9月決定は「大工」という氏について、長崎家裁の昭和61年7月決定は「肴屋」という氏について、いずれもやむを得ない事由があるとしました。

●同姓同名がいる場合

世の中には同姓同名の方もたくさんいますので、別に同姓同名の人がいるというだけでは、やむを得ない事由があるとはいえないでしょうが、会社、学校内などに同姓同名がいた場合はどうでしょうか。

例えば、学校の場合は、時期が来たら卒業することになりますので、不便があるとはいっても、期間が限定されています。

このようなことを考えますと、会社や学校内に同姓同名がいるとしても、それによってどれだけの不便が生じているのか、あるいはどの程度の不便が予測されるのかということは、やはり検証が必要でしょう。

●その他の例

その他、幼少時に近親者から性的虐待を受けた被害者が、戸籍上の氏名を使用することは、その近親者及び虐待行為を思い出して、強い精神的苦痛を受けるとして、氏の変更を申し立てたケースでは、やむを得ない事由があるものとされたようです。

*著者:弁護士 田沢 剛(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所。8年間の裁判官勤務を経たのち、弁護士へ転身。「司法のチカラを皆様のチカラに」をモットーに、身近に感じてもらえる事務所を目指している。)

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