怒りのコントロールを学ぶ(2)怒りの強さによって対処法を変える

「怒り」という感情は自然なものです。しかし、怒りを制御しないままに言葉や態度で発散していると、大切な人との人間関係を壊してしまう可能性もあります。時には、職を失ってしまうことさえるでしょう。

この連載では、怒りのコントロールについて、ある女性の事例とともに考えていきます。
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◆親も怒りを制御できない毒親だった

貞子さん(40代/仮名)は、大学時代から自分が怒りをコントロールできないことを自覚し始めました。子供の頃には、思い通りにならないことがあるとキレたかのような剣幕で迫ってくる親に圧倒されていました。

高校時代には、親のことが嫌で仕方がなく、可能な限り距離をおこうとしていたと言います。それでも、親に対して怒りを向けるようなことはできませんでした。自分の親は、今風の言葉でいうと「毒親」だと思っています。
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◆4段階の怒りのコントロール

貞子さんは怒りのコントロールの取り組み(アンガー・マネジメント)において、下記の4つを学んでいきました。

(1)怒りを理解すること
(2)怒りに突き動かされて行動してしまわないこと
(3)怒りという感情を受け止められるようになること
(4)怒りを感じることを恐れて自分の行動を不適切なまでに制限しないで生活

それは最初、終わりのない旅に出たような気分であったと貞子さんは言います。しかし、担当のカウンセラーと一緒に取り組みを続けているうちに、そして仲間の取り組みを見ているうちに、少しずつ成長している自分に気がつきました。
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◆「怒りのキャッチボール」を練習する

担当カウンセラーが、野球好きな貞子さんによく言っていたことがあります。

「キャッチボールもしたことがないような人に、時速150kmの速球をミットも着けないで受けろっていうのは無理な話だよね。怒りという感情についてきちんと理解すること、それがミットを着けることになるんだよ。

ミットを着けたら、少しずつさまざまなスピードの球に慣れながら、ミットを使うことに慣れていく。

そんな風に、怒りを受け止めるための心の筋肉をつけていくこと。怒りの強さによってどのように対応するのかを決め、それに沿って日々を送り、実地練習することが心の筋肉を鍛えることになる」ということです。

◆怒りの強さを採点して可視化する

「怒りという感情が出てくるのは、どこからか球が自分に向かって飛んでくるということなんだ。だからそれに対応できるようにしよう。」貞子さんはそう考え、懸命に取り組みました。球のスピードが遅いときには、落ち着いて気分転換をする。

中くらいの時には、怒りの強さが現実的に妥当かどうかを検討する。速いボールが来た時は、とにかくその場から逃げ出そう──ということをざっくりとした方針として決めました。

怒りがまったくない状態を0点、怒りが頂点に達する状態を10点として、普段からその強さ(=球のスピード)を測定するように意識していきました。
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◆人のせいにしていても始まらない

もちろん、最初は簡単にはいきませんでした。途中、「何で私がこんなことをしなきゃいけないのか、私がこうなったのは親のせいじゃないか」と思うこともたびたびありました。

しかし、ある時、親が何とかしてくれるわけではないし、人に八つ当たりしていても仕方がないと気づきました。そのように考えて自らを励ますことで、取り組みを継続できたと言います。
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◆怒りの制御がコミュニケーション能力を育む

少しずつ、怒りの速球に合わせて、ちゃんとミットでつかめるようになったという貞子さん。苛立った時に、「やばい」と気がついて、エスカレートしないようにその場から離れることもしばしばありました。

「以前は、怒りをつかむどころか、怒りにつかまれていた」のだと感じています。山あり谷あり、取り組みは決してスムーズには進まなかったけれど、そのうち、キャッチボール自体が楽しくなっていきました。

よく、言葉によるコミュニケーションを指して「会話のキャッチボール」という表現をしますね。貞子さんの「怒りのキャッチボール」も、それ自体を楽しめるようになったということは、人とのコミュニケーションが上手になったのだと言えるでしょう。

(この事例は複数の実例を基に構成しています。また、プライバシー保護のため一部を脚色しています)

●玉井仁(たまい・ひとし)
東京メンタルヘルス・カウンセリングセンターカウンセリング部長。臨床心理士、精神保健福祉士、上級プロフェッショナル心理カウンセラー。著書に『著書:わかりやすい認知療法』(翻訳)など

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