「ブレーキ役」の公明は自公政権の「がん」だった? 麻生太郎氏が酷評した思惑とは
自民党の麻生太郎副総裁が、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を含む安全保障関連3文書の昨年の与党協議に関し、公明党幹部の存在を「がんだった」と酷評した。能力の保有に当初は反対していた公明に今も強い不満を抱いていることの表れだ。憲法の平和主義や専守防衛を損なうような安保政策の大転換に慎重な姿勢を示す公明をけん制し、自民主導で次期戦闘機の輸出や改憲などの議論を一気に加速させたい思惑も透けて見える。 (中根政人、山口哲人、大野暢子)
◆「連携に変わりはない」と山口代表
共同通信によると、講演は24日に行った。麻生氏は「北朝鮮からどんどんミサイルが飛んでくる。だが公明党は専守防衛に反するという理由で反対。現実をよく見てみろ」と指摘。山口氏、石井啓一幹事長、北側一雄副代表や公明の支持母体である創価学会が「がんだった」とした上で「今は時代が違う。ウクライナみたいに日本が戦場になると言い続け、納得するという形になった」と語った。
「自公で力を合わせながら国民の求める政策を推進し、これからの課題を乗り越えていくという基本姿勢の下で協力し合いたい」。公明の山口那津男代表は26日の記者会見で、麻生氏の発言への評価を避けつつ、自公連携のあり方に変わりはないと強調した。
公明は「平和の党」を自任しつつも、連立維持を最優先し、支持母体の創価学会に慎重論が残る安保政策の転換も容認して自民に追随してきた。2013年には当時の安倍政権が自衛隊と米軍の一体化を進めるために提出した特定秘密保護法に賛成。15年には歴代政権が一貫して「憲法上許されない」としてきた他国を武力で守る集団的自衛権の行使を容認する安保関連法も成立させた。
それでも、公明は当初、集団的自衛権の容認に懐疑的で、拙速に物事を進めようとする自民に抵抗。最終的には自民に押し切られ、安保政策の大転換を受け入れたが、行使に厳格な要件を設けようとするなど、十分とは言えないが、一定の歯止め役を果たした。
敵基地攻撃能力の保有を巡っても、公明の山口氏は20年に「(政府が)将来にわたって能力を持つ考えはないと答弁していたのに、なぜ変わろうとしているのか」と述べ、自民と議論すること自体に一貫して消極的な態度だった。
◆鬱憤晴らしか保守層へのアピールか、その代償は…
21年衆院選後も議論に否定的で、山口氏は会見で態度が軟化したかと問われて怒りをあらわにする場面も。北側一雄副代表は「敵基地」「攻撃」の用語に「先制攻撃と誤解される可能性がある」と注文を付けた。台湾有事を声高に叫んで防衛力増強を訴える麻生氏にとって、公明幹部のせいで安保政策の見直しが思い通りに進まず、鬱憤(うっぷん)をためていたとみられる。
防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の要件緩和に向けた与党協議でも、公明が「政権のブレーキ役」(山口氏)の立場は変わらない。自民は、英国やイタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出を念頭に結論を急ぐ構えで、平和国家の理念を損なわないよう徹底した議論を求める公明の対応はもどかしく映る。
改憲では、自民は日本維新の会や国民民主党といった積極的な野党との連携も視野に論議を推進したい考え。9条改憲に慎重な公明とは温度差が消えない。
法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は「公明が安保協議に加わらなければ、岸田政権はもっと強い防衛政策を取れたと訴えることで、岩盤保守層へのアピールもあった」と推測。自公は次期衆院選の候補者調整を巡って関係修復にかじを切ったばかりだが、自公関係について「麻生氏の発言で一枚岩ではないことを印象づけ、公明支持者が選挙で動くか不透明になった」と指摘した。